Kiri's diary

きりねこNote

数学関連のことについてよく書きます

複素解析をざっとまとめるー17(複素関数の積分その2)

目次

 

複素線積分


 さて複素数積分です.
 複素積分は実数でのリーマン積分を形式的に複素数に拡張したものとして定義します.

複素平面上の曲線
 複素平面上の曲線とは, 変数 t によって表される2つの連続関数 x,y によって
\begin{align}
C = \{x(t)+iy(t)\in\mathbb{C}\,|\,t\in[a,b]\} \nonumber
\end{align}
と表される複素数の集合のこと.
\begin{align}
C:z=\varphi(t) = x(t)+iy(t)\quad(a\leq t \leq b) \nonumber
\end{align}
とも書く.

 次に曲線の滑らかさの定義です.

滑らかな曲線
曲線 C:\varphi(t) = x(t)+iy(t)  t について C^{1} 級で,
\begin{align}
\frac{d}{dt}\varphi(t) = \frac{d}{dt}x(t)+\frac{d}{dt}y(t) \neq 0 \nonumber
\end{align}
を満たすとき, 曲線 C 滑らかな曲線という.

 さらに「区分的に滑らか」というのもあります.

区分的に滑らか
 曲線 C を有限個の点
\begin{align}
a = t_{0}< t_{1} <\cdots< t_{N} =b \nonumber
\end{align}
で分割する. 曲線 C  t_{k}\leq t\leq t_{k+1} に対応する部分がそれぞれ滑らかな曲線になっているとき, 曲線 C 区分的に滑らかであるという.

 では, 複素線積分を定義できます.

複素線積分
  w=f(z) を,  z 平面上のパラメータ t で表される滑らかな曲線 C:\varphi(t)=x(t)+iy(t) で定義された1価関数とする. 曲線 C 上に N 個の分割点 z_{0}\cdots z_{N} を取る.  f(z_{k})  \Delta z_{k} = z_{k+1}-z_{k} の積により, 複素リーマン和が以下のように定義できる.
 \begin{align}
 \sum_{N-1}^{k=0} f(z_{k})\Delta z_{k} = \sum_{N-1}^{k=0} f(z_{k})(z_{k+1}-z_{k}) \nonumber
 \end{align}
 この複素リーマン和は N を無限に増やし, 分割点同士の差の絶対値 |\Delta z_{k}| = |z_{k+1}-z_{k}| を一様に 0 に近づけることである複素数値に収束する. この複素数値を複素線積分と呼び
 \begin{align}
 \int^{}_{C}f(z)dz \nonumber
 \end{align}
 と表す.

 複素線積分を単に複素積分ということもあります.
 実数の線積分と同様の次の性質が, 複素線積分にも成立します.

複素線積分の基本的性質
 曲線 C 上で連続な複素関数 f(z),g(z) について,
\begin{align}
\int^{}_{C}\{f(z)+g(z)\}dz& = \int^{}_{C}f(z)dz+\int^{}_{C}g(z)dz \tag{1} \\
\int^{}_{C}\alpha f(z)dz &=\alpha\int^{}_{C}f(z)dz \tag{2} \\
\int^{}_{C^{-1}}f(z)dz &= -\int^{}_{C}f(z)dz \tag{3}
\end{align}
 曲線[経路] C が2つの曲線の結合 C = C_{1}C_{2} である場合
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dz = \int^{}_{C_{1}}f(z)dz+\int^{}_{C_{2}}f(z)dz \tag{4}
\end{align}

では具体的な計算方法を教えましょう.

具体的な計算方法
 滑らかな曲線 C:z=\varphi(t)\quad(a\leq t\leq b) に対し,
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dz = \int^{b}_{a}f(\varphi(t))\frac{d}{dt}\varphi(t)dt \nonumber
\end{align}
である.

 では例題を解いてみょう!

例題1
 f(z) = z とする. 始点 \alpha=0 , 終点 \beta=1+2i を持つ, 次の図に示す2つの曲線[経路]に対して, 複素線積分 \int_{c}f(z)dz を計算せよ. (2つの曲線は前回の記事の線積分で取り上げた例題のものと全く同じです. )

f:id:TeikaKiri:20180313031402p:plain


(1) C_{1} \\
(2) C_{2}
例題1解答
(1) \varphi(t) をパラメータ t で表すと
\begin{align}
\varphi(t) &= x(t)+iy(t) \nonumber \\
&= t+2it\quad (0\leq t \leq 1) \nonumber
\end{align}
となります. このとき,
\begin{align}
\frac{d}{dt}\varphi(t) = 1+2i \nonumber
\end{align}
より, 線積分
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dt &=\int^{}_{C}f(\varphi(t))\frac{d}{dt}\varphi(t)dt \nonumber \\
&= \int^{1}_{0}(t+2it)(1+2i)dt \nonumber \\
&= \int^{1}_{0}(1+2i)^{2}t\, dt \nonumber \\
&= \left[\frac{(1+2i)^{2}}{2}t^{2}\right]^{1}_{0} \nonumber \\
&= \frac{(1+2i)^{2}}{2} = -\frac{3}{2}+2i \nonumber
\end{align}
(2)複素数 1+i  \gamma としよう. そして \alpha から \gamma までの経路を C_{2}' , \gamma から \beta までの経路を C_{2}'' としよう.  C_{2}' ,  C_{2}'' 上の複素数はパラメータ t を用いて次のように表せます.
\begin{align}
C_{2}':\varphi(t) &= t\quad (0\leq t \leq 1) \nonumber \\
C_{2}'':\varphi(t) &= 1+it\quad (0\leq t \leq 2) \nonumber
\end{align}
 C_{2} = C_{2}'C_{2}'' ですから, 線積分は,
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z) dz &= \int^{}_{ C_{2}'}f(z) dz+\int^{}_{C_{2}''}f(z) dz \nonumber \\
&= \int^{}_{ C_{2}'}f(\varphi(t))\frac{d}{dt}\varphi(t)dt+\int^{}_{C_{2}''}f(\varphi(t))\frac{d}{dt}\varphi(t)dt \nonumber \\
&= \int^{1}_{0}t\cdot 1 dt+\int^{2}_{0}(1+it)i\,dt \nonumber \\
&= \left[\frac{1}{2}t^{2}\right]^{1}_{0}+\left[-\frac{1}{2}t^{2}+it\right]^{2}_{0} \nonumber \\
&= \frac{1}{2}-2+2i = -\frac{3}{2}+2i \nonumber
\end{align}
ありゃ!(1)の結果と一緒になったね!

 曲線 C の始点と終点が一致している場合の線積分を周回積分といいます. 実関数の場合と同じですね. この周回積分について, 複素関数論(あるいは初等関数論)において最も美しい定理, コーシーの積分定理が成立します.


コーシーの積分定理


 コーシーの積分定理に向かうために, いくつか下準備をしましょう.
 以下, 領域 D は, 単連結な領域とします. 単連結の定義は次のようなものです.

単連結
 領域 D 内の任意の単純閉曲線の内部が,  D に含まれるとき, 領域 D は単連結であるという.

 例をだすと, 次の図のうち, 全射は単連結ですが, 後者は単連結ではありません.

f:id:TeikaKiri:20180313030553p:plain

単連結

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単連結でない




命題1
 関数 w=f(z) を領域 D 上で定義された正則関数,  g(w) を領域 E 上で定義された正則関数とする. 領域 D の任意の点 z\in D に対して f(z)\in E ならば,  f(z),g(w) の合成関数 F(z) = g\left(f(z) \right) は領域 D 上の正則関数であり, その導関数
\begin{align}
F'(z) = g'(f(z))f'(z) \nonumber
\end{align}
となる.

 証明しましょう. 正則の性質を使います. そんなに複雑ではありません.
証明
  z\in D を任意の点とし,  h,k を絶対値が十分小さい複素数とすれば,  w=f(z) より z+h\in D かつ w+k\in E である. さらに正則性より,
\begin{align}
f(z+h) -f(z) &=f'(z)h+P(z,h)h\quad\left(\lim_{h\to0}P(z,h)=0\right) \nonumber \\
g(w+k) -g(w) &=g'(w)k+Q(w,k)k\quad\left(\lim_{k\to0}Q(w,k)=0\right) \nonumber
\end{align}
を満たす P(z,h),Q(w,k) が存在する. これは実微分の復習で書いた「微分とはある点の近傍の点を1次式で近似すること」ということに通じている.
  k = f(z+h) -f(z) とおけば,  f(z) は連続関数であるため,  |h|\to0 のとき |k|\to0 である.  w+k = f(z+h),w=f(z) に注意すると,
\begin{align}
F(z+&h) -F(z) =g(w+k)-g(w) \nonumber \\
&= g'(f(z))\{f(z+h)-f(z)\}+Q(f(z)+k)\{f(z+h)-f(z)\} \nonumber \\
&= g'(f(z))\{f'(z)h+P(z,h)h\}+Q(f(z),k)\{f'(z)h+P(z,h)h\}
\end{align}
である. ここで,
\begin{align}
R(z,h)=g'(f(z))P(z,h)+Q(f(z),k)f'(z)+P(z,h)Q(f(z),k) \nonumber
\end{align}
とすると,
\begin{align}
F(z+h)-F(z) =g'(f(z))f'(z)h+R(z,h)h\quad\left(\lim_{h\to0}R(z,h)=0\right) \nonumber
\end{align}
が成立する. これは F(z)  z で複素微分可能で, その導関数 g'(f(z))f'(z) となることを示している. また,  f(z),g(w) は正則であるから,  g'(f(z)),f(z) も正則関数であり,  g'(f(z))f'(z) も正則である. よって F(z)=g(f(z))  z の正則関数である.
証明終
 そして命題1と同様にして次の命題も成立します.

命題2
  f(z) は領域 D で定義された正則関数,  \varphi(t)  D の点を値に持つ実変数 t\in\mathbb{R} 微分可能な複素数値関数とする. このとき,
\begin{align}
\frac{d}{dt}f(\varphi(t)) = f'(\varphi(t))\varphi'(t) \nonumber
\end{align}
が成立する.

 さてやってまいりました!命題2の式を線積分に適用しましょう. 曲線 C は領域 D 内で定義されている区分的に滑らかな曲線とします. すると,  a\leq t\leq b の場合,
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dz &= \sum^{n-1}_{j=0}\int^{t_{j+1}}_{t_{j}}f'(\varphi(t))\varphi'(t)dt \nonumber \\
&= \sum^{n-1}_{j=0}[F(\varphi(t))]^{t_{j+1}}_{t_{j}} \nonumber \\
&= \sum^{n-1}_{j=0}(F(\varphi(t_{j+1}))-F(\varphi(t_{j}))) \nonumber \\
&= F(\varphi(b))-F(\varphi(a))
\end{align}
となります.
 そして曲線 C の始点と終点が一致している場合, すなわち C が閉曲線の場合 a=b なので,
\begin{align}
\oint^{}_{C}f(z)dz = 0 \nonumber
\end{align}
となります. これが, コーシーの積分定理と呼ばれるものです. 領域 D の条件, 曲線 C の条件, 関数 f(z) の条件まで含めて書くと, コーシーの積分定理は次のようなことです.

コーシーの積分定理
 領域 D を単連結領域, 区分的に滑らかな曲線 C  D 内で定義された閉曲線とする. このとき, 関数 f(z)  D 上で正則ならば,
\begin{align}
\oint^{}_{C}f(z)dz = 0 \nonumber
\end{align}
となる.

 このコーシーの積分定理は, その美しさと実用性を兼ね備えた, 重要で強力な公式です. 私はまだまだ数学について知らないことばかりですが, 手元にある複素関数論の本には軒並み「コーシーの積分定理は何十年に一度出るか出ないかのレベルの数式」「コーシーの積分定理ほど簡単で内容豊富な定理は数学の中でもそう多くない」と書かれています.
 また, コーシーの積分定理の導出過程を見たみなさんは, 次の式が成立することもわかるでしょう.

 領域 D を単連結領域, 曲線 C_{1},C_{2} を, いずれも任意の点 \alpha, \beta \in D を始点と終点にもつ, 区分的に滑らかな D 上の曲線とする. このとき関数 f(z)  D 上で正則ならば,
\begin{align}
\int^{}_{C_{1}}f(z)dz =\int^{}_{C_{2}}f(z)dz \nonumber
\end{align}

 わかりやすくいえば, 「単連結領域上の正則関数の積分値は, 曲線の始点と終点の情報だけで決まり, 積分路は関係ない」ということです.
 このコーシーの積分定理を前提として, ここから複素関数論の様々な美しい定理たちが導かれます. まだ知らない人は期待していてください. 次回は「積分定理」を実際の積分に利用するための「積分経路の変形」について話します.