目次
複素線積分
さて複素数の積分です.
複素積分は実数でのリーマン積分を形式的に複素数に拡張したものとして定義します.
複素平面上の曲線とは, 変数によって表される2つの連続関数によって
\begin{align}
C = \{x(t)+iy(t)\in\mathbb{C}\,|\,t\in[a,b]\} \nonumber
\end{align}
と表される複素数の集合のこと.
\begin{align}
C:z=\varphi(t) = x(t)+iy(t)\quad(a\leq t \leq b) \nonumber
\end{align}
とも書く.
次に曲線の滑らかさの定義です.
曲線がについて級で,
\begin{align}
\frac{d}{dt}\varphi(t) = \frac{d}{dt}x(t)+\frac{d}{dt}y(t) \neq 0 \nonumber
\end{align}
を満たすとき, 曲線を滑らかな曲線という.
さらに「区分的に滑らか」というのもあります.
曲線を有限個の点
\begin{align}
a = t_{0}< t_{1} <\cdots< t_{N} =b \nonumber
\end{align}
で分割する. 曲線のに対応する部分がそれぞれ滑らかな曲線になっているとき, 曲線は区分的に滑らかであるという.
では, 複素線積分を定義できます.
を, 平面上のパラメータで表される滑らかな曲線で定義された1価関数とする. 曲線上に個の分割点を取る. との積により, 複素リーマン和が以下のように定義できる.
\begin{align}
\sum_{N-1}^{k=0} f(z_{k})\Delta z_{k} = \sum_{N-1}^{k=0} f(z_{k})(z_{k+1}-z_{k}) \nonumber
\end{align}
この複素リーマン和はを無限に増やし, 分割点同士の差の絶対値を一様にに近づけることである複素数値に収束する. この複素数値を複素線積分と呼び
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dz \nonumber
\end{align}
と表す.
複素線積分を単に複素積分ということもあります.
実数の線積分と同様の次の性質が, 複素線積分にも成立します.
曲線上で連続な複素関数について,
\begin{align}
\int^{}_{C}\{f(z)+g(z)\}dz& = \int^{}_{C}f(z)dz+\int^{}_{C}g(z)dz \tag{1} \\
\int^{}_{C}\alpha f(z)dz &=\alpha\int^{}_{C}f(z)dz \tag{2} \\
\int^{}_{C^{-1}}f(z)dz &= -\int^{}_{C}f(z)dz \tag{3}
\end{align}
曲線[経路]が2つの曲線の結合である場合
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dz = \int^{}_{C_{1}}f(z)dz+\int^{}_{C_{2}}f(z)dz \tag{4}
\end{align}
では具体的な計算方法を教えましょう.
滑らかな曲線に対し,
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dz = \int^{b}_{a}f(\varphi(t))\frac{d}{dt}\varphi(t)dt \nonumber
\end{align}
である.
では例題を解いてみょう!
とする. 始点, 終点を持つ, 次の図に示す2つの曲線[経路]に対して, 複素線積分を計算せよ. (2つの曲線は前回の記事の線積分で取り上げた例題のものと全く同じです. )
(1)\\
(2)
例題1解答
(1)をパラメータで表すと
\begin{align}
\varphi(t) &= x(t)+iy(t) \nonumber \\
&= t+2it\quad (0\leq t \leq 1) \nonumber
\end{align}
となります. このとき,
\begin{align}
\frac{d}{dt}\varphi(t) = 1+2i \nonumber
\end{align}
より, 線積分は
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dt &=\int^{}_{C}f(\varphi(t))\frac{d}{dt}\varphi(t)dt \nonumber \\
&= \int^{1}_{0}(t+2it)(1+2i)dt \nonumber \\
&= \int^{1}_{0}(1+2i)^{2}t\, dt \nonumber \\
&= \left[\frac{(1+2i)^{2}}{2}t^{2}\right]^{1}_{0} \nonumber \\
&= \frac{(1+2i)^{2}}{2} = -\frac{3}{2}+2i \nonumber
\end{align}
(2)複素数をとしよう. そしてからまでの経路を,からまでの経路をとしよう. , 上の複素数はパラメータを用いて次のように表せます.
\begin{align}
C_{2}':\varphi(t) &= t\quad (0\leq t \leq 1) \nonumber \\
C_{2}'':\varphi(t) &= 1+it\quad (0\leq t \leq 2) \nonumber
\end{align}
ですから, 線積分は,
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z) dz &= \int^{}_{ C_{2}'}f(z) dz+\int^{}_{C_{2}''}f(z) dz \nonumber \\
&= \int^{}_{ C_{2}'}f(\varphi(t))\frac{d}{dt}\varphi(t)dt+\int^{}_{C_{2}''}f(\varphi(t))\frac{d}{dt}\varphi(t)dt \nonumber \\
&= \int^{1}_{0}t\cdot 1 dt+\int^{2}_{0}(1+it)i\,dt \nonumber \\
&= \left[\frac{1}{2}t^{2}\right]^{1}_{0}+\left[-\frac{1}{2}t^{2}+it\right]^{2}_{0} \nonumber \\
&= \frac{1}{2}-2+2i = -\frac{3}{2}+2i \nonumber
\end{align}
ありゃ!(1)の結果と一緒になったね!
曲線の始点と終点が一致している場合の線積分を周回積分といいます. 実関数の場合と同じですね. この周回積分について, 複素関数論(あるいは初等関数論)において最も美しい定理, コーシーの積分定理が成立します.
コーシーの積分定理
コーシーの積分定理に向かうために, いくつか下準備をしましょう.
以下, 領域は, 単連結な領域とします. 単連結の定義は次のようなものです.
領域内の任意の単純閉曲線の内部が, に含まれるとき, 領域は単連結であるという.
例をだすと, 次の図のうち, 全射は単連結ですが, 後者は単連結ではありません.
関数を領域上で定義された正則関数, を領域上で定義された正則関数とする. 領域の任意の点に対してならば, の合成関数は領域上の正則関数であり, その導関数は
\begin{align}
F'(z) = g'(f(z))f'(z) \nonumber
\end{align}
となる.
証明しましょう. 正則の性質を使います. そんなに複雑ではありません.
証明
を任意の点とし, を絶対値が十分小さい複素数とすれば, よりかつである. さらに正則性より,
\begin{align}
f(z+h) -f(z) &=f'(z)h+P(z,h)h\quad\left(\lim_{h\to0}P(z,h)=0\right) \nonumber \\
g(w+k) -g(w) &=g'(w)k+Q(w,k)k\quad\left(\lim_{k\to0}Q(w,k)=0\right) \nonumber
\end{align}
を満たすが存在する. これは実微分の復習で書いた「微分とはある点の近傍の点を1次式で近似すること」ということに通じている.
とおけば, は連続関数であるため, のときである. に注意すると,
\begin{align}
F(z+&h) -F(z) =g(w+k)-g(w) \nonumber \\
&= g'(f(z))\{f(z+h)-f(z)\}+Q(f(z)+k)\{f(z+h)-f(z)\} \nonumber \\
&= g'(f(z))\{f'(z)h+P(z,h)h\}+Q(f(z),k)\{f'(z)h+P(z,h)h\}
\end{align}
である. ここで,
\begin{align}
R(z,h)=g'(f(z))P(z,h)+Q(f(z),k)f'(z)+P(z,h)Q(f(z),k) \nonumber
\end{align}
とすると,
\begin{align}
F(z+h)-F(z) =g'(f(z))f'(z)h+R(z,h)h\quad\left(\lim_{h\to0}R(z,h)=0\right) \nonumber
\end{align}
が成立する. これはがで複素微分可能で, その導関数がとなることを示している. また, は正則であるから, も正則関数であり, も正則である. よってはの正則関数である.
証明終
そして命題1と同様にして次の命題も成立します.
は領域で定義された正則関数, はの点を値に持つ実変数の微分可能な複素数値関数とする. このとき,
\begin{align}
\frac{d}{dt}f(\varphi(t)) = f'(\varphi(t))\varphi'(t) \nonumber
\end{align}
が成立する.
さてやってまいりました!命題2の式を線積分に適用しましょう. 曲線は領域内で定義されている区分的に滑らかな曲線とします. すると, の場合,
\begin{align}
\int^{}_{C}f(z)dz &= \sum^{n-1}_{j=0}\int^{t_{j+1}}_{t_{j}}f'(\varphi(t))\varphi'(t)dt \nonumber \\
&= \sum^{n-1}_{j=0}[F(\varphi(t))]^{t_{j+1}}_{t_{j}} \nonumber \\
&= \sum^{n-1}_{j=0}(F(\varphi(t_{j+1}))-F(\varphi(t_{j}))) \nonumber \\
&= F(\varphi(b))-F(\varphi(a))
\end{align}
となります.
そして曲線の始点と終点が一致している場合, すなわちが閉曲線の場合なので,
\begin{align}
\oint^{}_{C}f(z)dz = 0 \nonumber
\end{align}
となります. これが, コーシーの積分定理と呼ばれるものです. 領域の条件, 曲線の条件, 関数の条件まで含めて書くと, コーシーの積分定理は次のようなことです.
領域を単連結領域, 区分的に滑らかな曲線を内で定義された閉曲線とする. このとき, 関数が上で正則ならば,
\begin{align}
\oint^{}_{C}f(z)dz = 0 \nonumber
\end{align}
となる.
このコーシーの積分定理は, その美しさと実用性を兼ね備えた, 重要で強力な公式です. 私はまだまだ数学について知らないことばかりですが, 手元にある複素関数論の本には軒並み「コーシーの積分定理は何十年に一度出るか出ないかのレベルの数式」「コーシーの積分定理ほど簡単で内容豊富な定理は数学の中でもそう多くない」と書かれています.
また, コーシーの積分定理の導出過程を見たみなさんは, 次の式が成立することもわかるでしょう.
\begin{align}
\int^{}_{C_{1}}f(z)dz =\int^{}_{C_{2}}f(z)dz \nonumber
\end{align}
わかりやすくいえば, 「単連結領域上の正則関数の積分値は, 曲線の始点と終点の情報だけで決まり, 積分路は関係ない」ということです.
このコーシーの積分定理を前提として, ここから複素関数論の様々な美しい定理たちが導かれます. まだ知らない人は期待していてください. 次回は「積分定理」を実際の積分に利用するための「積分経路の変形」について話します.