目次
複素関数の積分
さて複素積分にいきましょう. 複素積分は美しい定理が目白押しです. 面白いですよ. では微分のときと同様, 実関数の復習からいきましょう.
リーマン積分
を閉区間で定義された連続関数とする. 実数直線上のこの区間の上に個の分割点
\begin{align}
a = x_{0}< x_{1}<\cdots < x_{N} = b \nonumber
\end{align}
を取ると, との積によりリーマン和が以下のように定義できる.
\begin{align}
\sum_{k=0}^{N-1}f(x_{k})\Delta x_{k}=\sum_{k=0}^{N-1}f(x_{k})(x_{k+1}-x_{k}) \nonumber
\end{align}
このリーマン和はを無限に増やし, 分割点同士の差を一様にに近づけることである値に収束する. 連続関数においては, この収束値を積分値と呼び, 次のように書く.
\begin{align}
\int^{b}_{a}f(x)dx \nonumber
\end{align}
特に, が区間 ]の全ての点で微分可能ならば次が成立する.
\begin{align}
\int^{b}_{a}f'(x)dx = f(b)-f(a) \nonumber
\end{align}
これを微積分学の基本定理という.
線積分
2変数関数に対しては, 線積分と面積分を定義することができます. まずは線積分から.
リーマン積分のときには閉区間 ]を考えました. これはすなわち始点と終点の情報だけを考えていたということです. 線積分とは, 平面内の始点と終点に加え, 始点から終点へ至る経路も指定して積分するものです. 複素積分といえば, 普通は複素線積分を表します. 面積分が全く無意味という訳ではありません. しかし, 複素積分に現れる様々な美しい定理は原則として線積分の上に成立しており, 面積分に立脚した強力な理論体系が構築されていないことがその理由でしょう.
線積分は実数直線上の微積分学の基本定理を一般化したものです. 平面上のある曲線を考えましょう.
曲線の座標はパラメータを用いて,
\begin{align}
C = \{(u(t),v(t))\in \mathbb{R}^{2}|t\in[a,b]\} \nonumber
\end{align}
と表せるとします. そしてこのの閉区間を個の分割点で分割します.
\begin{align}
a = t_{0}< t_{1}<\cdots < t_{N}=b \nonumber
\end{align}
連続する2つの分割点間の距離をとします.
この分割に基づいて曲線上の点を
\begin{align}
P_{i} = (u(t_{i}),v(t_{i}))\quad (i = 0,1,\cdots,N) \nonumber
\end{align}
と定め, さらに
\begin{align}
s_{i} = |P_{i}P_{i-1}|\nonumber
\end{align}
とします. すなわちはとの距離を表します.
そして曲線上の線積分を次のように定義します.
\int^{}_{C}f ds =\lim_{|\Delta|\to 0}\sum_{i=1}^{N}f(P_{i})s_{i} \nonumber
\end{align}
を別の値に置き換えることで, 線積分の変種が定義できます.
\begin{align}
\int^{}_{C}fdx &= \lim_{|\Delta|\to0}\sum_{i = 0}^{N}f(P_{i})(u(t_{i})-u(t_{i-1})) \tag{1} \\
\int^{}_{C}fdy &= \lim_{|\Delta|\to0}\sum_{i = 0}^{N}f(P_{i})(v(t_{i})-v(t_{i-1})) \tag{2}
\end{align}
(1)をのに沿った方向の線積分, (2)をのに沿った方向の線積分と呼ぶ.
つまり線積分とは, 曲線上のそれぞれの点に対して値が関数で定められていて, その値の総和ということなわけです. もし関数が常にを取る定数関数ならば, 次のようになるのはわかりますか.
\begin{align}
\int^{}_{C}1 ds = \mbox{曲線} C \mbox{の長さ} \nonumber
\end{align}
これは線積分の定義から曲線の長さが分かる, というよりはこれが曲線の長さの定義です.
線積分で注意する点は, まず, 始点から終点までどのような曲線に沿って線積分を行うかで, 結果の値は異なるということです. 始点から終点までの「経路」という言い方をよくします. 始点から終点まで, 一直線の直線を選んだ場合と, ちょっと曲がった経路を選んだ場合では, 始点と終点が同じでも線積分の結果は異なります.
もう1つの注意点は, 曲線に「向き[方向]」が決められているということです. 当然, 始点から終点への方向へ向かうのです. 向きが変われば, 線積分の値も変化します.
曲線に逆の向きを指定した曲線をと書きます. このとき, 曲線の向きについて次のような重要な性質があります.
\begin{align}
\int^{}_{C^{-1}}fdx &= -\int^{}_{C}fdx \nonumber \\
\int^{}_{C^{-1}}fdy &= -\int^{}_{C}fdy \nonumber \\
\int^{}_{C^{-1}}f ds &= \int^{}_{C}f ds \nonumber
\end{align}
また, 2つの経路の結合で定められる経路をと書くと, 次式が成立します.
\begin{align}
\int^{}_{C_{1}C_{2}}f ds = \int^{}_{C_{1}}f ds+\int^{}_{C_{2}}f ds \nonumber
\end{align}
経路がの個の経路の結合経路の場合
\begin{align}
\int^{}_{C_{1}C_{2}\cdots C_{n}}f ds = \sum^{n}_{k=1}\int^{}_{C_{k}}f ds \nonumber
\end{align}
とする. 始点から終点までの経路が, 次の図で示す経路であるとき, 線積分
\begin{align}
\int^{}_{C}f(x,y)dx \nonumber
\end{align}
の値をそれぞれ求めよ.
(1)
(2)
周回積分
線積分において経路が閉じている, すなわち始点と終点が一致しているとき, このような経路に沿った線積分を特に周回積分と呼び, 記号では,
\begin{align}
\oint_{C}f ds
\end{align}
と書きます. このような閉じた曲線のことを閉曲線といいます. この場合の経路にも向きは決められていて, 一般的には始点から出発して反時計まわりに進んでいく方向を正の向きといいます. 直感的に説明すると, 自分が経路の上に立って両手を横に伸ばして歩いてゆくときに, 常に左手が経路の内側に入っているような進行方向が正の向きです.
また, 閉曲線の中でも, 始点と終点以外では自己交叉しないものを単純閉曲線といいます.
面積分
関数に経路に基づく微小な値あるいはあるいはを掛け, その値を経路に沿って足し上げる積分を線積分というのでした.
これに対し面積分とは, 関数に面積に基づく微小な値を掛け, 面積に沿って足し上げるというものです. 平面上のある領域に対し, 面積分は次のように定義されます.
平面上の領域に対し面積分は
\begin{align}
\int^{}_{D}f(x,y)dS \nonumber
\end{align}
ただしは領域内の微小な長方形の面積. すなわち
\begin{align}
dS = dx\cdot dy \nonumber
\end{align}
よって面積分は次のように書ける.
\begin{align}
\int^{}_{D}f(x,y)dS &= \iint^{}_{D}f(x,y)dxdy \nonumber \\
&=\lim_{i,j\to\infty}\sum_{i,j}f(x_{i},y_{j})(x_{i+1}-x_{i})(y_{j+1}-y_{j}) \nonumber \\
&= \lim_{\Delta\to0}\sum_{i,j}f(x_{i},y_{j})\Delta x_{i}\Delta y_{j} \nonumber
\end{align}
例題2
関数に対して面積分を求めよう. ただし領域を
\begin{align}
D = \{(x,y)\,|\,0\leq x \leq 1,0\leq y\leq 1\} \nonumber
\end{align}
を満たす正方形の領域とします.
例題解答
(1)経路上を移動する点をパラメータを用いてと表すと, はの間をの方向へ変化します. より,
\begin{align}
\int^{}_{C_{1}}f(x,y)dx &=\int^{}_{C_{1}}f(x,y)\frac{dx}{dt}dt \nonumber \\
&= \int^{1}_{0}(t^{2}+4t^{2})\cdot 1 dt \nonumber \\
&=\left[\frac{1}{3}t^{3}+\frac{4}{3}t^{3}\right]^{1}_{0} \nonumber \\
&= \frac{5}{3} \nonumber
\end{align}
(2)を点としよう. そして点から点までの経路を, 点から点までの経路をとしよう. するとそれぞれの経路はパラメータを用いて
\begin{align}
C_{2}':x(t)=t,\quad y(t)=0\qquad(0\leq t\leq 1,0\to1) \nonumber \\
C_{2}'':x(t)=1,\quad y(t)=t\qquad(0\leq t\leq 2,0\to2) \nonumber
\end{align}
と表せます. なので線積分は
\begin{align}
\int^{}_{C_{2}}f(x,y)dx &=\int^{}_{C_{2}'}fdx+\int^{}_{C_{2}''}fdx \nonumber \\
&=\int^{1}_{0}(t^{2}+0)\cdot1dt+\int^{2}_{0}(1^{2}+t^{2})\cdot0dt \nonumber \\
&= \left[\frac{1}{3}t^{3}\right]^{1}_{0} \nonumber
\end{align}
線積分の値が, 一般には経路に依存することが分かってもらえましたか?
例題解答2
\begin{align}
\iint^{}_{D}\sqrt{x+y}\,dxdy &= \int^{1}_{0}\left(\int^{1}_{0}\sqrt{x+y}\,dx\right)dy \nonumber \\
&= \int^{1}_{0}\left[\frac{2}{3}(x+y)^{3/2}\right]^{y=1}_{y=0}dy \nonumber \\
&= \frac{2}{3}\int^{1}_{0}\left( (x+1)^{3/2}-x^{3/2}\right)dy \nonumber \\
&= \frac{2}{3}\left[ \frac{2}{5}(x+1)^{5/2}-\frac{2}{5}x^{5/2}\right]^{1}_{0} \nonumber \\
&= \frac{4}{15}\left(2^{5/2}-1-1 \right) = \frac{8}{15}(2\sqrt{2}-1) \nonumber
\end{align}