Kiri's diary

きりねこNote

数学関連のことについてよく書きます

複素解析をざっとまとめるー7(様々な複素関数その3)

目次

累乗関数

累乗関数の定義

 指数関数では《 e 複素数乗》を定義しました. 今度は《複素数複素数乗》を定義します. これを累乗関数といいます. 累乗関数についても, 実数の場合の累乗関数を複素数に拡張したものです. 実数での累乗関数は,
\begin{align}
\log (x^{a}) = a\log x \nonumber \\
\therefore \quad x^{a} = \exp\{a\log x\} \nonumber
\end{align}
というものです. 複素数の累乗関数はこの実数 x,a 複素数に置き換えるだけです.
  \exp という記号はわかりますか? e の指数が長くなるときには \exp\{\}  \{\} に指数部分を書くことで見やすくするのです. すなわち,  \exp\{a\log x\}  e^{a\log x} は数学的に同じもの表します.

累乗関数の定義
複素数 z,a について, 累乗関数 w=z^{a}
\begin{align}
z^{a} = \exp\{a\log z\} \nonumber
\end{align}
と定義する.


 累乗関数には対数関数が現れます. 対数関数が多価関数だったように, 累乗関数も多価関数になります. つまり,  z=re^{i\theta} とすると,
\begin{align}
z^{a} &= \exp\{a\log z\} \nonumber \\
&=\exp\{a(\log r+i(\theta+2n\pi))\} \nonumber \\
&= \exp\{a\log r\}\exp\{(\theta+2n\pi)ai\} \nonumber \\
&=r^{a}\exp\{ai\theta\}\exp\{2na\pi i\}\quad(n\mbox{は整数}) \nonumber \\
[&=r^{a}e^{ai\theta}e^{2na\pi i}]\nonumber
\end{align}
と多価関数になります. 式からわかるように,  z^{a} に多価性を与えているのは \exp\{2na\pi i\}=e^{2na\pi i} の部分です. しかし,  a が整数である場合には,  \exp\{2na\pi i\} は常に \exp\{2na\pi i\}=1 を満たすため, 厳密に言えば, 累乗関数 z^{a} が多価関数になるのは,  a が整数でない場合です.

累乗関数の主値

 多価性を持つ累乗関数にも主値があります. それは対数関数を主値に固定して,

累乗関数の主値
\begin{align}
z^{a} &= \exp\{a\mathrm{Log}\,z\} \nonumber \\
&= r^{a}e^{ia\theta} \nonumber
\end{align}

と定義されます.
 具体例として (1+i)^{\frac{2}{3}} の値を求めましょう.
  1+i 極形式 1+i = \sqrt{2}e^{i\frac{\pi}{4}} と表せるため, ここから
\begin{align}
(1+i)^{\frac{2}{3}} &= (\sqrt{2})^{\frac{2}{3}}e^{i\frac{\pi}{4} \frac{2}{3}}e^{\frac{4}{3}n\pi i} \nonumber \\
&= \sqrt[3]{2} e^{\frac{\pi}{6}}e^{\frac{4}{3}n\pi i} \nonumber \\
&= \sqrt[3]{2}\left(\frac{\sqrt{3}+1}{2} \right)e^{\frac{4}{3}n\pi i} \nonumber
\end{align}
とわかります.

 

多価関数


 対数関数のように, 1つの z に対して w が複数の値を取る関数を多価関数といいます.  w=\log z  w の取りうる値が無限に存在するので, 多価関数の中でも特に無限多価関数と呼びます. そもそも, 私達が最初に教わった写像の定義では, 多価関数は写像[関数]に含まれません. 私たちは写像の定義を次のように教わりました.

写像
集合 A の任意の元 a に対し, 集合 B の元 f(a) がただ一つ定まっているとき,  f  A から B への写像とよぶ.

 この定義に基づくと, 次の図のような集合 A,B の対応は《写像》とは呼べません.

f:id:TeikaKiri:20180118154332j:plain

これは写像ではない

f:id:TeikaKiri:20180118154343p:plain

これも写像ではない


上の2つの図のうち, 後半の図が多価関数の図になります.本来は多価関数は関数に含むことはできませんが, 写像の定義を拡張して, 多価関数も関数として認めているのです.多価関数に対して, 1つの値に1つの値が定まるような普通の関数のことを1価関数とよびます. 一般に1つの値に n 個の値が定まる関数は n 価関数とよびます. 多価関数を1価関数と同様に取り扱うための方法としてリーマン面が考案されました. リーマン面についても, 最後のほうで話しますね.