目次
幾何的な視点から
複素数とは何か
次に幾何的な視点から複素数を見てみましょう!
数直線を使って実数の話をした, あるいはされた経験があると思います. そのとき, 実数を数直線上のある一点として考えました. これは実数を幾何的に捉えていると言えます.
複素数は, という2つの実数を変数として持っています. このの値が決まれば複素数も1つに決まります. そこで, 数直線を2つ持ってきて複素数を平面幾何的に捉えます. これを複素平面と呼びます. 複素平面では, 横方向に実数の数直線, 縦方向に実数の数直線を持ってきて, 平面を作っています. が決まれば1つの複素数が決定できるので, 全ての複素数は複素平面上のある1点と考えられます. この複素平面の概念に立脚するとき, 複素数全体の集合は複素平面上の点全体の集合と考えられるのです.
たとえば, 複素平面上で, , は次の点です.
横方向の数直線が複素数の実部の値に対応しており, 縦方向の数直線は虚部の値に対応しています. それぞれの軸を実軸, 虚軸と呼びます. また実軸と虚軸の交点, つまり座標の点を原点と呼びます.
複素平面上で実数とは実軸上の点, 虚数とは実軸を除く複素平面上の点, 純虚数とは虚軸上の点のことを指します.
加法と減法
複素数の加法と減法は複素平面上ではベクトルの加法と減法と同様のものとして考えることができます. 実は加法と減法に限らず, ここからしばらく(極座標を導入するまで)は複素数をベクトルと同じ性質を持つと考えた方が理解しやすいです. 本来なら加法と減法の次は乗法と除法について話したほうが良いのですが, 乗法と除法については極座標系を紹介した後の方が圧倒的に理解しやすいので, 一旦後回しにしますね.
では加法と減法に行きましょう. といっても本当にベクトルと同じです. 複素平面上の複素数を, 原点を始点とするベクトルと考えましょう. たとえば, 複素数との和と差はそれぞれ次の図のようになります.
2つのベクトルを辺に持つ平行四辺形を考えればいいんでしたね.
倍, 複素共役, 絶対値
ある平面ベクトルを倍したベクトルは, 元のベクトルと大きさが同じだが向きが反対のベクトルになりました. 複素数も同じです. またある複素数の複素共役は, 虚部だけを倍したものなので, 元のベクトルを実軸を対称軸として反対側に対称移動させたものになります.
さらに, 複素平面上での複素数の絶対値とは原点からの距離のことです. ベクトルの大きさが表すものと同じです. 次の絶対値, 倍, 複素共役の対応を表した図はよくテキストに載っているものですね.
絶対値は原点からの距離ですので, 複素数の絶対値はピタゴラスの定理より,
\begin{equation}
|A| = \sqrt{a^{2}+b^{2}} \nonumber
\end{equation}
であることが幾何的にもわかりますね. そしてさらに複素数について,
\begin{align}
\mathrm{Re}(A) = \frac{1}{2}(A+\overline{A}) \nonumber \\
\mathrm{Im}(A) = \frac{1}{2}(A-\overline{A}) \nonumber
\end{align}
であることが次の図からも幾何的にわかるでしょう.
極座標, オイラーの公式
さて, 極座標を紹介しましょう. 極座標とは, 平面上の点の座標を《実軸の正の部分からの角度》と《原点からの距離》を使って三角関数を用いて表す座標系です.図で説明しましょう.
上の図でを考えると,
\begin{align}
\cos\theta &= \frac{a}{|A|} \nonumber \\
\therefore\quad a &=|A|\cos\theta \nonumber
\end{align}
また, を考えると,
\begin{align}
\sin\theta &= \frac{b}{|A|} \nonumber \\
\therefore \quad b &=|A|\sin\theta \nonumber
\end{align}
がわかります. よって複素数は, 実軸の正の部分からの角度と原点からの距離を用いて,
\begin{align}
A &= a+ib \nonumber \\
&= |A|\cos\theta+i|A|\sin\theta \nonumber \\
&= |A|(\cos\theta+i\sin\theta) \nonumber
\end{align}
と表せます. 複素数をこのように表す座標系を極座標系と言います. 《実軸の正の部分からの角度》と《原点からの距離》で点の位置を表す座標系です. 複素数の極形式と言ったりもします. 直交座標は見慣れていると思いますが, 極座標の具体的なイメージを図にしておきます.
原点を中心とする同心円がたくさん並んでいるイメージです.
複素数の極形式において, 《実軸の正の部分からの角度》のことを偏角(argument)と呼び, 複素数の偏角がであるとき, これを記号で
\begin{equation}
\mathrm{arg}(A) = \theta \nonumber
\end{equation}
と書きます.
そしてさらに, ここで複素数の極座標を記述しやすくするオイラーの公式という式を定義として与えます.
\begin{equation}
e^{i\theta} = \cos\theta+i\sin\theta \nonumber
\end{equation}
これがオイラーの公式です. は微分・積分(それ以外の分野でも)で何度も出てきたネイピア数(自然対数の底)です. ネイピア数は微分しても同じ値となる無理数でしたね. ネイピア数はこのあとの複素数の指数関数でも出てきます.
さてオイラーの公式を用いて, 任意の複素数は
\begin{equation}
A =|A|(\cos\theta+i\sin\theta)= |A|e^{i\theta} \nonumber
\end{equation}
の形で表せます. この形で表した場合も極形式と呼びます.
複素数の極座標表示とは複素数を実軸の正の部分からの角度と原点からの距離を用いて表す方法である.
具体的には, 複素数の極座標表示は
\begin{equation}
A = |A|(\cos \theta+i\sin\theta) \nonumber
\end{equation}
となる.実軸の正の部分からの角度を偏角といい,と表す.
ネイピア数について, 純虚数乗を次式で定義する.
\begin{equation}
e^{i\theta} =\cos\theta +i\sin\theta \nonumber
\end{equation}
この式をオイラーの公式と呼ぶ.
オイラーの公式を用いれば, 複素数の極座標は次のようにも表せる.
\begin{equation}
A = |A|e^{i\theta} \nonumber
\end{equation}
乗法と除法
極座標を導入したので複素数の乗法と除法についても幾何的に考察できます. 加法と減法については複素数を平面上のベクトルと考えましたが、乗法と除法は点の移動として考えると理解しやすいです。
2つの複素数が極形式で
\begin{align}
A &= |A|(\cos\theta+i\sin\theta)=|A|e^{i\theta} \nonumber \\
B &= |B|(\cos\varphi+i\sin\varphi)=|B|e^{i\varphi} \nonumber
\end{align}
と表せるとき,
\begin{align}
AB &= |AB|(\cos(\theta+\varphi)+i\sin(\theta+\varphi))=|AB|e^{\theta+\varphi} \nonumber \\
\frac{A}{B} &= \left|\frac{A}{B}\right|(\cos(\theta-\varphi)+i\sin(\theta-\varphi))=\left|\frac{A}{B}\right|e^{\theta+\varphi} \nonumber
\end{align}
となります. すなわち, 乗法の場合には,
となり, 一方除法の場合には,
となるということです. これらを数式で表せば, 乗法の場合,
\begin{align}
|AB| &= |A||B| \nonumber \\
\mathrm{arg}(AB) &= \mathrm{arg}(A)+\mathrm{arg}(B) \nonumber
\end{align}
除法の場合,
\begin{align}
\left|\frac{A}{B}\right| &= \frac{|A|}{|B|} \nonumber \\
\mathrm{arg}\left(\frac{A}{B}\right) &= \mathrm{arg}(A)-\mathrm{arg}(B) \nonumber
\end{align}
ということです.
確かめてみましょう.
\begin{align}
AB &= |A|(\cos\theta+i\sin\theta)|B|(\cos\varphi+i\sin\varphi) \nonumber \\
&= |A||B|(\cos\theta+i\sin\theta)(\cos\varphi+i\sin\varphi) \nonumber \\
&=|A||B|(\cos\theta\cos\varphi-\sin\theta\sin\varphi+i(\cos\theta\sin\varphi+\cos\varphi\sin\theta)) \nonumber \\
&=|AB|(\cos(\theta+\varphi)+i\sin(\theta+\varphi)) \nonumber
\end{align}
\begin{align}
\frac{A}{B} &=\frac{|A|(\cos\theta+i\sin\theta)}{|B|(\cos\varphi+i\sin\varphi)} \nonumber \\
&=\frac{|A|}{|B|}\cdot \frac{(\cos\theta+i\sin\theta)(\cos\varphi-i\sin\varphi)}{(\cos\varphi+i\sin\varphi)(\cos\varphi-i\sin\varphi)} \nonumber \\
&=\left|\frac{A}{B}\right|\frac{\cos\theta\cos\varphi+\sin\theta\sin\varphi+i(\sin\theta\cos\varphi-\cos\theta\sin\varphi)}{\cos^{2}\varphi+\sin^{2}\varphi} \nonumber \\
&= \left|\frac{A}{B}\right|(\cos(\theta-\varphi)+i\sin(\theta-\varphi)) \nonumber
\end{align}
ほらね. ここでは三角関数の加法定理
\begin{align}
\sin(\alpha\pm\beta) = \sin\alpha\cos\beta\pm\cos\alpha\sin\beta \nonumber \\
\cos(\alpha\pm\beta) = \cos\alpha\cos\beta\mp\sin\alpha\sin\beta \nonumber
\end{align}
を用いています. 複素数同士の乗法と除法を複素平面上で図示すると次の図のようになります.
乗法と除法
複素数との乗法と除法はそれぞれ、
\begin{align}
AB &= |AB|(\cos(\theta+\varphi)+i\sin(\theta+\varphi))=|AB|e^{\theta+\varphi} \nonumber \\
\frac{A}{B} &= \left|\frac{A}{B}\right|(\cos(\theta-\varphi)+i\sin(\theta-\varphi))=\left|\frac{A}{B}\right|e^{\theta+\varphi} \nonumber
\end{align}
となる. 絶対値と偏角に分けると,
乗法の場合,
\begin{align}
|AB| &= |A||B| \nonumber \\
\mathrm{arg}(AB) &= \mathrm{arg}(A)+\mathrm{arg}(B) \nonumber
\end{align}
除法の場合,
\begin{align}
\left|\frac{A}{B}\right| &= \frac{|A|}{|B|} \nonumber \\
\mathrm{arg}\left(\frac{A}{B}\right) &= \mathrm{arg}(A)-\mathrm{arg}(B) \nonumber
\end{align}
となる.
\end{align}
変換
絶対値は, 2つの複素数の積, もしくは商になり, 偏角は2つの複素数の和, もしくは差になる, ということが図からわかるでしょうか. 乗法と除法の説明をするときに, 《平面上の点の移動》と考えるといいました. この点の移動のことを変換といいます. 変換という観点からみたとき, ある複素数に複素数を掛けることは,
- と原点からの距離を倍し, 原点を中心として反時計まわりにだけ移動させる
ことだと解釈できます. 同様にをで割ることは,
- と原点からの距離を倍し, 原点を中心として時計まわりにだけ移動させる
ことだといえます.